「100坪の敷地に畑が5つ、山が3つ付いて230万円。リフォーム工事費を加えても2000万円でお釣りがきます。関東では考えられませんね」と笑う深野さん。神奈川県横浜市在住中に思案していた物件は、同じような建物が複数並んでいる建売住宅でした。「この家のために一生懸命働かなきゃいけないんだなぁと、微妙な気持ちになっていた時、妻から島根へのUターンを示唆されたんです」。当時は年収で住む家や人生まで決められてしまうような窮屈さを感じていたとか。今回購入したのは、築100年近くの古民家。最新の住宅に比べて機能性は劣るにせよ、筋書きのない可能性にあふれています。「薪ストーブを入れようか、山の中にサウナを建てようかとワクワクしています」。
移住BEFORE・AFTER
[BEFORE]
□ 住所
神奈川県
□ 職業
自治体の救命救急士
□ 住まい
3LDK
□ 趣味
特になし
[AFTER]
□ 住所
川本町
□ 職業
民間病院の救命救急士
□ 住まい
2LDK→一軒家
□ 趣味
自然遊び
移住“前”の暮らし
救命救急士として活躍
命を救う現場にやりがい
専門学校で救命救急士の資格を取得後、横浜市消防局に就職。都会への憧れと、大きな組織で働きたい思いでした。24時間の交代勤務。119番通報を受けて救急車で駆け付け、患者を病院搬送するのが仕事です。やりがいがあり充実していました。
島根に決めたワケ
きっかけは家探し
窮屈な都会暮らしに決別
長男の小学校入学を前に家探しを始めるも、予算内で買えるのは無個性の建売住宅。モヤモヤしていた時、奥さんが夫妻の故郷である島根県へのUターンを提案しました。決められたレールの上を歩くような都会暮らしに決別し、移住を決意します。
移住のためにしたこと
ネットで救命救急士募集を発見
町の支援で住居も確保
「島根」「救命救急士募集」でネット検索して見つけたのが、川本町の病院での募集。その後、東京都で開催されたUIターンフェアに参加し、定住財団と繋がります。「かわもと暮らし情報センター」のアテンドで町を回り、住宅も斡旋してもらいました。
“今”の暮らし
民間病院で地域の患者支援
季節を楽しむ丁寧な暮らし
地域医療に注力する民間病院所属の救命救急士として、緊急時の救急搬送や外来での患者支援など、多方面で活躍しています。子どもたちと季節ごとの自然遊びを楽しんだり、購入した古民家をリノベーションしたり。地に足のついた丁寧な暮らしを満喫中。
深野さんの体験談を動画で紹介!
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旬の恩恵を真っ先に享受
毎日のご飯のレパートリーも豊かに関東にいた時は、スーパーなどにタケノコが並ぶと「あぁそんな季節なんだな」と、値段が高くても無理して購入していました。ところがこっちでは、いろんな方からいただくし、山で掘る作業から誘われることも。うちの前を通り過ぎる時にそっと置いていく人も。リアル「ごんぎつね」の世界ですよ(笑)。旬の恩恵を真っ先にいただき、豊かさを感じます。レパートリーも自然と増えましたね。とはいえ、たまにはジャンクフードを食べたくなることも。近所には外食する店が少ないので、自分たちで作ったり、市街地へ出た時に食べたりしています。
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年収は大幅ダウンしたけど
生活水準は豊かさをキープ年収は200万円ほど下がりましたが、生活水準は変わっていません。要因のひとつは、飲み会などお金を使うシーンが減った点。それに加え、横浜では子どもと公園で遊ぶ時にも駐車場代に1日3000円、お昼ご飯に数千円って何をするにもお金がかかり窮屈感がありました。島根に来てガソリン代など車関係の出費は増えましたが、無料で体験できることが多く自由な感じがします。ただ、子どもが県外の大学へ進学する場合など、将来的な教育費を考えると貯蓄はあった方がいい。農家でアルバイトするなど、無理のない範囲で副業を考えるのもありかなと思案中です。
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自然が育む美しさを再認識
都会から島根へ帰りカラフルに映った川本の町小学生の頃、アニメで描かれていた東京の景色がとてもキラキラと見えて都会に憧れを抱くようになり、就職も横浜でしました。でも先日、久しぶりに横浜に出向いて川本町に戻ってきた時、目に映るすべてがとてもカラフルに見えたんです。夕焼け空、雲海に包まれる山々、そのどれもが本当に美しくて。逆にあれほどキラキラしていた横浜の街が灰色に見えて驚きました。人生の豊かさって年代や生き方、フェーズによっても変わるんだなぁと今、実感しています。
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前職の経験を活かしつつ
川本町の新天地で新たなやりがいを実感横浜市消防局に在籍中は24時間勤務と、変則的な交代勤務。救急車で患者さんのもとに駆け付け、病院へ救急搬送していました。生死を争う現場も少なくなく、「僕たちがいなかったら……」というケースも。感謝されることも多く、充実感はありました。現在は、訪問診療をしている患者さんの急変時、状態を確認する必要がある場合などに自宅へ伺い、処置をしたり、病院に救急搬送したり。外来での業務もあります。以前とは異なり、関わった患者さんの予後を確認でき、自らの処置をフィードバックできるのはいいですね。
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豊かな自然は遊びの宝庫
地域ぐるみでの子育てがうれしい田舎で子育てをしようと考えていたわけではありません。小学4年生の長男は本屋やゲームセンターが身近にある都会が好きですし、僕もUターン前はにぎやかな繁華街での遊びも満喫していました(笑)。反面、田舎には一見何もありません。でも、使う目的が決められている遊具や玩具のようなものがなくても、遊びを見つけて楽しめる人にとっては、田舎は可能性の宝庫だと思います。
昨年は、次男と外遊び中にクルミの実を見つけたので、2人で拾いまくって、炒って割ってパウンドケーキを作りました。クルミの実って発酵させて釘と一緒に煮ると染料にもなるんですよ。この時は挑戦しませんでしたが、次回はぜひトライしてみたいですね。堆肥を作っている知人からカブトムシの卵を大量に譲り受けたので、次男は今、そのお世話に夢中です。僕も今夏、梅のシロップづくりに誘われ、お手伝いしてきました。向き不向きはあると思いますが、何もないところでも遊べる人にとっては贅沢な場所です。都会にも田舎にも一長一短があります。子どもたちにはどちらも体験して視野を広げてほしいと思っています。
川本町には親も親戚も、古くからの友人もいませんが、地域で子育てをするような感覚があるのでとても助かっています。人と人との繋がりが近くて、「ちょっと子どもを見ていてくれるかな」「うちの子と一緒に遊ばせておくよ」などというやり取りが自然にできる雰囲気なんです。過干渉に感じる人もいるかもしれませんが、僕はそんなタイプじゃないみたいでストレスはないですね。