神戸時代は、育った環境や仕事の忙しさなどもあって全く料理をしていませんでした。ご飯も炊けなかったくらいです(苦笑)。今は、義父母の畑を借りて野菜を作り、その野菜でスープなども作れるように。新鮮な野菜のおいしさに驚いています。時間に余裕がある時は料理をするようになり、子どもたちに好評なメニューは、ホットサンドです。
妻の実家で約3年半の同居暮らしを経て、2階建ての家を新築。ハウスや実家、小学校に近くて、暮らしに田園風景を取り入れられるような立地を探していたところ、実家の真横に最適な土地があったんです。山々をバックに、広々とした田んぼを望むLDKにはフルオープンの窓を採用。春は遠景のヤマザクラ、秋は風に揺られる黄金の稲穂など、季節の移り変わりを日常的に感じながらの暮らしは最高です。フローリングは無垢材、壁は漆喰にするなど、内装も天然素材にこだわりました。
アパレルメーカーに勤務していた頃は、子どもが起きる前に出社して深夜に帰宅することもしばしば。仕事優先に生きていくことも価値があるとは思いますが、僕自身は家族との時間をもっと持ちたいと思っていました。起きている時の顔を見られないような日々では、子どもたちが将来大きくなった時、後悔しそうな気がしていました。
今も繁忙期は忙しく、ハウスに夜遅くまでいることもありますが、家とハウスが近いので、子どもが遊びにきたり、僕がふらっと家に戻って食事を一緒にしたりすることができます。共有できる時間は確実に増えました。
自然豊かな環境が子どもを情緒豊かに育ててくれています。以前住んでいた小学校の校区は8割の小学生が中学受験するような地域でしたが、僕ら夫妻は子どもを伸び伸びと育てたいと考えていました。今や、川に入ってザリガニを取ったり、畑を走り回ったり、野生児そのもの(笑)。近所のおじいちゃん、おばあちゃんが子どもたちに声を掛け、見守ってくれていることにも助けられています。
就農希望者を総合的に支援する「安来市就農パッケージ」を活用。1年目は、ふるさと島根定住財団の「産業体験」を活用し、指導農業士のもとで、マンツーマンの指導を受けました。僕と同時期に研修を受けた同期が2組いて、師匠になる方も3人おられたのですが、市の担当者の方が僕らと師匠の性格などをよくとらえて組み合わせを考えてくれました。研修中は基本9時から17時までの勤務。僕の師匠は、何でもできる人でした。教えてもらった内容もイチゴ栽培に留まらず、溶接や機械のメンテナンスなど多岐に渡りました。僕も師匠に習ったことや他の方々の知恵をお借りして、ビニールハウスは解体から設置まで1人で行いました。全く未知の分野の農業に不安を覚えなかったわけではありませんが、自治体あげての支援システムが整っている上、収益を上げている先輩方のお話も聞けたことで、勇気づけられました。農業知識や技術だけでなく、農家の想いを教えてもらった1年でもありました。すべてを自分でマネジメントできることが“ひとり農業”の魅力の一つ。独立した今は、苗の成長が気になって休みの日もハウスに出入りしますが、全く苦になりません。
Iターンしてイチゴ農家になると決めた時から、ビニールハウスを活用したショップをデザインすることは念頭にありました。店の名前は「いちごの木△」。動物たちが休んでいる木陰をイメージさせる「木」と、テントを想像させる「△」を名前に入れました。イチゴを介して、お客様がほっとひと息できる空間を作りたいと思っています。採れたてのイチゴやジャムなどの加工品を提供。イチゴ関連のさまざまなグッズやアウトドア商品などの雑貨を置き、グランピングテントなども紹介しています。こだわりが強い人間なので、人を雇って規模を拡大することはないと思いますね(笑)。さまざまな分野のビジネスパートナーとタッグを組みながら、工夫することで収益を上げていくのが僕の夢。やりたいことが次から次へとあふれてくるので、ワクワクしながら毎日を送っています。
何といっても豊かな自然です。景色は美しく、排気ガスの臭いがなくて空気がきれい。時間がゆっくりと流れる感じで、心も落ち着きます。
神戸にいた頃、妻は自転車の前と後ろに子どもたちを座らせて公園まで連れて行っていましたが、今は家の周りすべてが遊び場。用水路でザリガニやドジョウを採ったり、トンボを追いかけたり、花を摘んだり……。遊具がなくても、子どもたちが自分たちで遊びを生み出して楽しんでいるようです。
隣で暮らす義父母に加え、近所の方々が何気なく見守ってくれていることにも助けられています。子育てには最適な場所ですね。