出雲に暮らし、松江のIT企業で働く松尾さん。
幅広い業務をこなす日々の傍ら、プライベートは旅行にライブとアクティブに過ごす。
「住む場所とワクワクする場所は同じじゃなくていい」
島根での暮らしを軽やかに自分らしく楽しんでいる。
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面接で気付かされた、
自分の働くべき場所
「出雲に帰ってきたなと感じさせてくれる」。松尾さんがそう話す景色は、神戸川の河口近くにかかる、くにびき海岸大橋からの眺め。出雲市内を南北に流れる神戸川や遠くそびえる北山山系を望み、日本海からの爽やかな海風が吹き抜ける。出雲が神話の舞台であることを思い出させてくれるような、美しく、穏やかな風景だ。
松尾さんはここからほど近い場所に小学生の頃から暮らしている。市内の高校から広島の大学に進学し、卒業して松江市のIT企業に就職した。島根は好きだが、“就職先は絶対に島根!”と最初から決めていたわけではない。広島も視野に入れた就職活動中、広島のとある企業での面接がUターンを決める鍵となった。一人の面接官から、「転職をしない前提で考えると、当社で40年頑張ることになるが、ここで情熱ややりがいを感じられそうか?」という旨の質問をされたという。「40年か…と思って冷や汗をかいた記憶があります」と笑う松尾さん。しかし、その質問がきっかけで腹が決まった。「自分の仕事はやっぱり地元に還元されてほしいし、その方が情熱とやりがいを感じられるという答えを導き出せました。自分はやっぱり島根で働くべきだということを気づかせてもらった、いい面接でしたね」と振り返る。
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島根だからこそのビジネスチャンス
時には企業同士が手を取り合って
松尾さんが勤める「株式会社テクノプロジェクト」は、ソフトウェアの委託開発や情報システムの構築などを手掛ける、県内でも躍進中の企業だ。人事部門である「ヒューマンリソースセンター」に所属し、入社5年目にして採用や広報においてはリーダー的ポジションを任されるほか、人材育成やSDGs推進など幅広い業務を行っている。傍から聞くと大変そうに感じる仕事だが、「日々新しいことに触れられている面白さがある」とあくまでもポジティブ。上下関係の垣根を感じさせない自由な社風で、仕事で行動をともにする入社1年目のトレーニーとも“先輩後輩”といった雰囲気はなく、友達同士のように会話をする様子が印象的だ。
現在は松江の本社をメインに、週に1〜2日は出雲の自宅でテレワークをしたり出雲のオフィスに通ったりと、現代らしい自由な働き方をする松尾さん。都会の人混みや満員電車よりも、ゆったりとした島根での暮らしが自分の人間性には合っているという。
“田舎にはスキルアップのチャンスややりがいのある仕事がない”というイメージを持たれがちだが、「島根はむしろ逆」というのが松尾さんの持論。地方としてのさまざまな課題を持つ島根だからこそ、それを解決に向けてどうアプローチできるかというビジネスチャンスがあると話す。「そういう課題解決をみんなでやろうという空気感も島根のいいところ。例えば人事一つ取っても、企業同士で人材を取り合うのではなく、人口減少にどう立ち向かうか、どうしたら一人でも多く戻ってきてくれるかを、手を取り合って一緒に考えたり情報を共有したりするところがありますね。それぞれが個で活躍できる場もあるし、ここぞという時には同じ思いの人と繋がれる、島根で仕事をしながらそのバランスの良さを感じています」
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オンとオフはしっかり切り替え
旅行やライブでリフレッシュ
自宅から松江のオフィスまでは車で往復2時間。一見長く感じるこの通勤時間も、松尾さんにとっては必要なプライベート空間だという。「考えたいことをまとめたり、仕事のタスクを整理したりするのにちょうどいい時間なんです。車の中は完全個室なので、ストレス発散したい時は大声で歌えますし(笑)」
仕事上では日々責任ある業務を遂行しつつ、オフはしっかり切り替える。「出雲大社は家から近いこともあってよく行きます。地元の友達と神門通りで食べ歩きをしたり、稲佐の浜でのんびり海を見ながら話をしたり。家から大社まで往復10kmなので、ランニングをするにもちょうどいい距離。全国から神様がお集まりになる神在月は毎年すごい賑わいで、そういう時に行くとこっちも楽しい気分になれるんです」と、出雲大社近辺の暮らしならではの贅沢な過ごし方を満喫する。
会社のメンバーとはスポーツや飲み会を楽しみ、年に数回は旅行や好きなアーティストのライブで県外に行くことも。「県外へのライブは年に7回くらい行きますね。一人で行くことも結構あります。事前にSNSで繋がって、現地ではじめましての人とライブの後に飲みに行くこともあります」と楽しそうに話す。
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安心できる土台があるから
新しいことへのチャレンジもしやすい
何事も気負わず、ストレスもあまり溜め込まず、現代のツールを上手く利用しながら自分らしい生き方をする松尾さん。“出雲の暮らしの中でどんな瞬間が好き?”と尋ねると少し考えて、「変な答えだけど県外から帰ってきた時。家の近くのくにびき海岸大橋からの景色を見ると、やっぱり出雲っていいなって思うんですよね」と穏やかに答える。冒頭の、“帰ってきたと感じさせてくれる”というのだ。
「出雲はそこにいるだけで安らぎや安心感のような“何か”を得られるところがいいなと思うんです。暮らしながらチャージできるというか。住む場所に全てを求めなくてもいいと僕は思っていて。例えば気持ちが上がるようなことを求める時、それが別の場所にあればそこに行けばいいだけ。でもそうやってたまに都会に行くと楽しいんだけど、2〜3日すると帰りたくなっちゃうんですけどね(笑)」
風の時代といわれる現代に相応しい、まさにふわりと海風にそよぐような暮らしぶり。出雲という安心できる場所があるから、瞬間的に楽しいことを求めてどこかに行くことや新しいことへのチャレンジができる。そう語る松尾さんの言葉はどこまでもピースフルだ。「強いて言うなら、新幹線があるといいなあ(笑)このまま人口が減って衰退するのは寂しいので、この先何か自分の培ったスキルやノウハウを基に島根の人口減少を少しでも何とかしたい。僕一人で大きく変えることはできないと思うけど、地元の企業に還元するとか、少しでもプラスにしていけたら」
ベースはゆったりと。繋がりたい時に繋がり、チャレンジしたい時は頑張り、ワクワクしたい時は、どこへでも行く。松尾さんの軽やかで柔軟な生き方は、島根暮らしの新しい魅力を見つけさせてくれそうだ。
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- 松尾裕樹さん
- 出雲市出身。市内の高校から広島の大学に進学し、卒業してUターン。松江市に本社を置くIT企業、株式会社テクノプロジェクトのヒューマンリソースセンターで、主に人事採用や広報を担当する。