全国大会にも出場したサッカー少年は、
沖縄で海の楽しさを学んだあと
、地元・浜田の海でその素晴らしさを再確認。
生まれ育った海が、
彼にとって最高の仕事場になった。
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海があったから
ここに帰ってきた!
日本海に面した浜田市の北部は、変化に富んだ海岸が長く伸びる海洋エリア。県内最大の漁獲量を誇る浜田漁港があり、美しく澄んだ海岸ではマリンスポーツが盛んだ。幸せを招く〝バブルリング〟のパフォーマンスで人気の、あのシロイルカが泳ぐ水族館「しまね海洋館アクアス」があるのもこの海岸。
生まれ育った浜田の海で、ライフセイバー・マリンスポーツインストラクター・塩づくり・素潜り漁師など、数々の海の仕事に従事して、海とともに生きるひとがいる。田畑卓郎さん、34歳。サッカーに明け暮れた高校生活の後、地元の先輩が立ち上げた「浜田ライフセービングクラブ」と出会い、海との関わりを深めていった。「先輩は、沖縄でマリンスポーツのインストラクターなど海の仕事をしてUターンした人。話を聞いているうちに、ボクも無性に行きたくなって。鞄1つ持って沖縄に行きました。19歳のときでした」
こうして、沖縄で働きながら、シュノーケリング・ジェットスキーなどのインストラクターや、船舶の操縦などもこなし海の魅力にハマっていった。沖縄で3シーズンを過ごし終えたとき、「浜田ライフセービングクラブで塩づくり事業をはじめるから、帰ってこないか」と先輩に誘われた。「地元なんか帰らないよ…」と思っていた時期もあったというが、なぜかこのとき、まったく迷いなくUターンを決めた。「不思議ですよね。1週間後にはもう、浜田に帰っていましたから」
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大好きな海だから
守るし育てもする。
「沖縄の海のきれいさは誰もが知ってるけど、こっちへ帰ってきて浜田の海もぜんぜん負けてないなって感激したんです。先輩たちと同様に、ボクも素潜り漁をするようになって、冬の海の中に入るんですけど、ホントめちゃめちゃきれいなんですよね。沖縄にぜんぜん負けてない!」。けれど一方では、こんな心配事もあるという。「ボクは漁師としてはまだ新米で、浜田の海の現状しか知らない。でもベテランの漁師さんは〝昔に比べると漁果が減った〟とか、〝海のきれいさが違ってきた〟とか教えてくれます。だから、ボクらは、浜田の海を守り、育てていかないといけない」たとえば、本来なら暖かい海にいるはずのガンガゼウニが増えて、サザエやアワビのエサになる海藻を食い荒らしているのだ。そこで、ガンガゼウニを駆除するのはもちろんなのだが、ただ捕獲するだけでなく、釣りエサとして販売。駆除活動の資金にあてている。「今は、海藻を増やす取り組みや、アワビやサザエの稚貝の放流なども行っていて。海の資源を増やすための活動を、先輩たちに引っ張ってもらってやっていっています。だってボクらはまだ、これから何十年もこの海で生きていかなければならないのだから」
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子どもたちに知って欲しい
海ってこんなに楽しいぞ!
浜田漁港からマリン大橋を通って渡る瀬戸ヶ島に、 2020年7月、ガレージハウスをイメージさせる真っ白な建物が完成した。名称は「渚の交番(通称:be)」。田畑さんたちの浜田ライフセービングクラブと浜田市、そして日本財団とが連携してオープンさせた施設だ。「渚の交番」をちょっと説明すると、海の体験活動や海辺の安全、そして海洋教育の拠点となる施設で、田畑さんたちの活動が認められて、ここ浜田が全国で8ヶ所目の拠点となった。オープンしてまだ間もないが、地元の子どもたちがバナナボートに歓声をあげたり、塩づくり体験をしたり。広い芝生の庭では、海辺の焚き火料理イベントなども開催。県外からも、マリンスポーツアクティビティを楽しみに訪れる人が徐々に増えているという。「ボクらが子どもの頃は、泳いだり、サザエを獲ったり、当たり前に海で遊んでいました。でも今は、子どもたちが海に親しむ時間が少なくなっていて。だから、浜田の海に関することを、体験を通して子どもたちに知ってもらえる拠点ができたことは、正直うれしい。〝伝える〟っていったらちょっと大げさかもしれないけど、ここで楽しんでもらうことが、海洋教育につながれば素晴らしいですね」
まさに〝海と生きる〟という言葉が似合う田畑さん。いかにも海のスペシャリストといった感じなのだ。
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浜田の砂浜は
大きな砂場だ。
「ボクは漁に出るのがとにかく好きでね。基本、素潜り漁はひとりで行うんですけど、〝今日はどこに行こうかな~〟とポイントを決めて船を出す。それがホント楽しいんですよ!商売ではあるんですけどね」と、実にうれしそうな顔を見せてくれた。12月1日が漁解禁日の浜田の海ではアワビ、サザエ、ナマコなど、いわゆる高級食材が獲れるのだ。
プライベートでは、大阪出身の奥さまと遠距離恋愛を実らせて、2014年に結婚。長男と長女、2人の子どものお父さんだ。「海以外の趣味って、あんまりないんですけど。やっぱり家族と過ごす時間には幸せを感じます。よく散歩に出かけるのは、自宅から車で10分ほどの千畳ビーチ。子どもたちは海岸で砂遊びするのがとにかく楽しいみたいで。砂まみれになってもおかまいなしで遊んでいます。息子とは釣りにも行ったりしますね。なるべくボクが子どもの頃のような遊びをしてほしいなって思っているので」
きれいな砂浜は、子どもたちにとって大きな砂場のよう。ワンちゃんも一緒になって駆け回る光景が日常のワンシーンなんて、うらやましい。田畑さんの海好きは、ちゃんと家族みんなに受け継がれているようだ。
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- 田畑卓郎さん
- 沖縄でシュノーケリングやジェットスキーのインストラクター、船の操縦など海に関する知識や楽しさを学び、地元・浜田市にUターン。様々なプロジェクトを通して、浜田の海を盛り上げようと奮闘する仕掛け人のひとり。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。