大学時代、漠然と胸に抱えていた「将来への不安」
そんな時に声をかけてくれた“友人”を訪ね、
未知の土地、益田へとやってきた大輝さん。
垣根のない地域性の中で
新しい価値観をつくりながら
“パートナー”とともに
2年目の益田暮らしを満喫中だ。

大学院での就活時、
友人に誘われ益田へ
大輝さんが初めて益田の地を訪れたのは2022年の夏。故郷の岡山を出て大阪の大学に進学し、大学院の修士課程在学中の時だった。益田に暮らす大学時代からの友人、夏実さんから「こっちに遊びに来ない?」と誘いを受けたのだ。ちょうど卒業後の進路について思い悩んでいたタイミング、「よし!」と腰を上げ、夏実さんを訪ねて益田へと向かった。
「大学時代の友人」と言っても同じ大学だったわけではなく、2人が出会ったのは大阪から遠く離れた宮城県。大輝さんは大学3年の時、東日本大震災を経験した学生の話に影響を受け、1年間休学して被災地である宮城県石巻市で暮らすことに。何か地域に関わる活動をしたいという気持ちから、現地ではまちづくりを行うNPO団体に所属し、さまざまな地域活動に参加した。「活動を通し、人と人とのつながりや挑戦することの大切さを学ばせてもらいました」と当時を振り返る。
一方、夏実さんは宮城県仙台市の出身で、教師を志すため宮城県内の大学に通っていた。在学中に別のNPO団体が主催するプログラムのインターンを務め、そのイベントの参加者の1人が大輝さんだったのである。2人はこのイベントをきっかけに意気投合。大輝さんが大阪の大学に復学して以降も交友関係は続いた。




ここで挑戦してみたい。
パートナーとともに!
大学で教育学を学んでいた夏実さんは、地域の事例を調べる中で益田市の特色あるキャリア教育に着目し、実際に訪れてみることに。自分たちで暮らしを豊かにしようとする益田の風土に触れ、夏実さんは「ここでチャレンジしたい」と迷うことなく移住を決意。益田で小学校の教師という夢を叶えた。そして地域の人たちにもすっかり溶け込んだ頃、進路に悩む友人の大輝さんを益田に招いたというわけである。
かくして、大輝さんは益田市へとやってきた。「夏実さんに益田を案内してもらい、いろいろな場所や彼女の暮らしぶりを見て、いいところだと感じました」と話す。もともと地域活動などに興味があったこともあり、「自分もここで何かに挑戦してみたい」という思いがふつふつと湧き上がってきた。そして大輝さんも益田で暮らすことを決めたのだった。と同時に、日本海の大海原が目の前に広がる海辺のカフェで、以前から抱いていた友達以上の気持ちを夏実さんに伝えた。めでたく思いを実らせた大輝さんは、晴れて2024年の春から益田市の住人となったのである。






壁をつくらない地域性と、
ちょうどいいサイズの心地よさ
現在、大輝さんは市内にある「大畑建設」で働いている。同社は県西部を代表する建築物・島根県芸術文化センター「グラントワ」をはじめ、道路などのインフラ整備や県立公園の指定管理など、益田市を中心にさまざまな施工を手掛ける総合建設会社。大輝さんはここで経理や総務といったバックオフィス業務を担当している。「地域のインフラに密接に関わり、協賛やボランティアといった地域貢献にも力を入れている企業。業務を通して“地域を支える”というやりがいを感じています」と話す。
他部署とのやり取りも多く、コミュニケーション力も必要とされる業務だが、社員同士や上層部に対しても気軽に話せる環境があるという。「益田の土地柄でしょうか、“よそから来た人”と遠巻きに見るのではなく、“よそから来たんだよね!”って切り込んでくる人が多い気がします。それに、何かをやりたいと思った時に、じゃあやってみようよって一緒に動いてくれる人が多いですね。大きすぎず、小さすぎない地域で、自分の始めやすいサイズでいろんな挑戦ができる。手が届く範囲に必要なものがあって、いい意味で狭いコミュニティが居心地良くて。そのちょうどいい大きさがこの土地の強みだと感じます」
益田で暮らし始めてカルチャーショックを受けたのが石見神楽。「大人から子どもまで、プライベートで神楽を楽しんでいる。何でみんなこんなに熱心なんだろうって、最初はちょっと理解できなかった」と笑う大輝さん。石見神楽は県西部で古くから行われている伝統芸能で、神話などを題材に歌や踊りで表現する。徐々にテンポを上げるビートに合わせて軽やかに舞う神楽は、地元民ならずとも見ていてワクワクするものだ。夏実さんも頷きながら、「子どもたちもみんな神楽が大好きで、練習したいから部屋を貸してほしいと自主的に頼んでくるんです。“伝統文化を継承しなければ”とか、“神楽をやりなさい”って大人が押し付けているわけじゃない。ただ楽しそうにやっている大人たちを見て、子どもたちも自ら関わり楽しんでいる姿が本当に素敵」と語る。大人子ども、地域内外など、多様な人たちが自然と交わり合う益田市の気質は、神楽という文化の上にできたものかもしれない。






人とのつながりの中で消えていった
将来への不安
今、2人が暮らしているのは市内の一軒家。ここも大きすぎず小さすぎず、2人で暮らすのに「ちょうどいいサイズ」の住宅だ。地域の中に都市部のようなエンターテイメントはないが、特に不自由は感じないと2人は言う。「強いて言うならラーメン屋が少ないくらいかな」と笑う大輝さん。益田は島根県の最西端に位置するため、同じ県内でも東部にある松江や出雲へは遠く、遊びに行くには広島や山口の方が便利な土地。休みの日は太陽がキラキラと反射する海岸線をドライブしたり、津和野や萩市といった観光地に立ち寄ったりしながらぶらりと出かけることも。1人の時間も2人の時間も、無理なく心地いいと感じる範囲で楽しんでいる。
「益田の人は、自分の時間を大切にして日々を楽しんでいる人が多いように思います。その影響なのか、自分もここに来て、それまで抱えていた将来への不安をあまり感じなくなりました。あとドライブをしながら、自分って意外と運転が好きなんだなって、新しい自分を発見したり(笑)ジムに通いはじめるなど、前よりもポジティブに行動できるようになりました。夏実さんを介して徐々に地域の知り合いも増えてきたところですが、色んな人との繋がりの中で、何かを一緒に作ったり楽しんだりと、ここでしかできないことに幸せを感じます」。縁もゆかりも無かった地に2人で根を下ろし、ここで手に入れたたくさんのつながりを大切にしながら、日々をゆったりとマイペースに歩んでゆく。




- 難波大輝さん
- 岡山県津山市出身。大阪の大学に進学し、途中1年間休学して石巻市に暮らした経験も。復学して大学院を修了し、2024年から益田市に在住。市内にある総合建設会社、大畑建設株式会社でバックオフィス業務を担当している。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。