家族、仲間、地域が一つの輪に
全てに感謝し、「ふるかわ」の味を
丁寧に繋いでいく

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「家業は絶対に継がない!」
そう決意していた少年は、出雲から東京の大学へ。
7年の時を経て帰郷し、
3代目を受け継ぐ覚悟を決めた。
支えてくれる全ての人と誰かの笑顔のために、
今日も食と向き合う。

家族や地域のために、
自分にできることは何か

―美しい食文化を未来に継承する―。出雲市にある「おいしさ工房 ふるかわ」は、そんな想いを持って食を提供している仕出し・弁当の会社だ。長年地域に根づいた経営を行い、市内はもとより、わざわざ市外から買い求める人も多い。食材や手作り感へのこだわりは食べてみて納得である。

古川遼太郎さんは古川家の長男として生まれ育った。両親から会社を継ぐように言われたことは一度もなかったが、小さい頃から周りには「ふるかわの後継者」と見られて育ったという。「学校でちょっといたずらすると、先生から“そんなんじゃ社長になれないよ”って言われたりして、絶対に継ぐもんか!!って思っていましたね(笑)でもその反面、友達や周りの大人たちから“弁当おいしかったよ”なんて言われるとすごくうれしかったのを覚えています」と話す。そんな複雑な心境の中で少しずつ意識も変化し、高校で進学先を考える頃には「いつ自分にパスが来てもいいように」と経済学部を選択した。

そして東京の大学を卒業し、食品関係の会社に就職して都内で3年ほど働いていた頃。世の中はコロナ禍により人々の集いや会食がなくなり、ふるかわの仕出しの売上は激減。ハレの日の注文だけでなく、消費者の日常的な需要に対応するため、弁当と惣菜販売に特化した店舗を立ち上げることとなった。「父からその話を聞いて、家族への恩返しや地域のために自分ができることは何かを考え、地元に帰って会社を手伝うことを決めました」。古川さんは2022年に帰郷し、ふるかわの一員となった。

受け継がれてきた「食」へのこだわり
時代が変わっても
大切なところは守り続ける

ふるかわの創業は昭和初期、前身は八百屋だったという。その後、鶏卵の卸売業を経て、昭和30年代の祖父母の代から徐々に惣菜を提供するようになっていった。地域に愛されるふるかわの味は、その頃からつくられてきたものであり、特に祖母は安心なものを手作りで作ることに強くこだわった。その意志は2代目である父に引き継がれ、古川さんにもしっかりと刻まれている。「手作りはやっぱり手間もかかるし、いいものを使えば原材料も上がるし大変です。でも従業員さんたちも協力してくれているおかげで、子どもたちにも安心して食べてもらえるものを作れている。時代とともに食は変化していくし、うちが作るものも少しずつ変わるかもしれない。でもふるかわの根底にある大切なところは絶対に守っていきたいと思っています」と古川さんは力強く言い切る。

古川さんは現在、弁当と惣菜販売店の店長として働いている。両親も職場では上司であり、会社経営の大先輩である。古川さんも経営者の卵として、両親の姿から日々学びを深めている。「父は売上をどう伸ばすかではなく、どうやったら人が喜んでくれるかを常に探求し、勉強し続けている人。そのハングリー精神や仕事への姿勢は本当に尊敬しています。取引先やお客様との関係も、父が何十年もかけて作り上げてきたものですし、僕が今仕事をする上でお客様から感謝の言葉などをいただけるのも、父が頑張ってくれたから。自分もいつか子どもができたら、その子が周りの人から温かく迎え入れてもらえるような場所を、親として作っていかないといけないなと感じます」

仲間たちとの時間が
「やる気」の原動力に

古川さんが大切にしている時間の一つが仲間たちとの時間。「こっちに帰ってきて、バスケやバレーボールに誘われて、参加する中で仲良くなりました。同じ高校だった子もいれば、そこから繋がった新しい友人もいる。仲間が近くにいて、会おうと思ったらすぐ集まれるのが島根のいいところ」。スポーツをしたり、食事会をしたり、ゲームをしたり。何気ない時間の中で、仕事、恋愛、悩み事など、他愛のない会話をしながら過ごす時が、一番幸せを感じるひとときだと話す。

友人たちの職業は、助産師や小児科で働く看護師、教師などさまざま。「例えばですけど、助産師の友人が関わった赤ちゃんが、お食い初めでうちの料理を食べて、小児科の友人のところで診察を受けて、教師の友人に教えられるかもしれないね、なんて話をするんです。実際にそんな偶然がどこかで起きてるのかは分かりませんけどね(笑)そんな風に考えた方が夢があるし、想像すると楽しいですよね。自分のやっている仕事は大きな意味で、友人たちと一緒にやっていると思うとやる気が出るんです。友人たちから聞く仕事の話から、うちの料理を食べる子どもたちの姿が想像できる。みんなで地域の子どもたちを育てているんだなっていう気持ちに、僕は勝手になっています(笑)それにJAに勤める友人もいて、彼の話を聞くと地元の農家さんをもっと大切にしないといけないなと思います。いい食材があるからこそ、いい料理が提供できるわけですし、この食材をどう活かすかというメニュー作りにこだわりたいですね」。食というものを通じて、家族、友人、農家、地域の人たちが大きな一つの輪で繋がっているのだと、古川さんは話す。

ふるかわの食で
たくさんの人を笑顔に幸せにしたい

10月中旬、出雲市駅の近くにあるアーケード商店街「サンロードなかまち」では、地元商店を中心としたイベントが開催されていた。いろいろな店が立ち並ぶ中にふるかわのブースもあり、古川さんが人気商品のコロッケを販売していた。ブースの前では美味しそうにコロッケをほお張る人たちの姿も見られる。「人の集まりとか繋がりの中で、みんなが笑顔になっている瞬間を見るのが好きなんです。こういうイベントは特に、お客様がうちの商品を手にとって喜んでくれている姿を見られるのがすごく楽しい」と笑顔で話す。

人の食生活は時代とともに変化していく。コロナ禍を境に人の集まりは減少し、冠婚葬祭にまつわる行事も小規模化されている。しかし形が変わっていったとしても、食を通じて人が笑顔になるシーンをこれからも作っていきたいと古川さんは言う。「食は生きる上で欠かせないものであり、おいしい食べ物は人を温かく幸せにしてくれる。だから僕も自分が作り出すもので人を幸せにしたい」。生まれ育ったこの土地で、ふるかわの味と先代の思いを受け継ぎながら、人を笑顔にできる食をこれからも提供していく。

古川遼太郎さん
古川遼太郎さん
出雲市出身。東京の大学に進学し、食品関係の会社に就職。2022年に出雲市にUターンして家業を継いだ。現在は弁当と惣菜を店舗販売する「ふるかわキッチン」の店長を務め、時代に即した食の提案に積極的に取り組んでいる。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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