地元の島根に戻るか、学生時代を過ごした兵庫に残るか、迷いながら就職活動を進めていた杉谷さん。都会での一人暮らしに何ら不自由を感じていなかったが、島根に帰ると肩の力を抜いてリラックスしている自分がいた。「なんだろう、この安心感」。自然豊かな風景、穏やかな人柄に居心地の良さを実感し、島根での就職を心に決める。就活を機に化粧をするようになって、「お化粧したり、お肌をお手入れしたりするとモチベーションが上がる!」と、美容の可能性の大きさに気付いた。「人とお話するのも大好き」で、人と美容に関われる仕事を探してたどり着いたのがまちデコだった。
現在は多くの観光客でにぎわう玉造温泉だが、かつては空き家も多く、人通りの少ない温泉街だった。そこで古から伝わる「美肌の湯」にスポットを当て、玉造温泉水を使ったコスメブランドを立ち上げて温泉街の活気を取り戻す一翼を担ったのが、まちデコの前身・合同会社玉造温泉まちづくり街デコだ。
「玉造温泉の魅力を発信して、温泉街にまたにぎわいを取り戻したまちデコの熱い想いに感動しました」と杉谷さん。現在は、「玉造アートボックス」1階の美肌をテーマにしたセレクトショップ「美肌マルシェ」で接客を担当する。訪れてくれた一人一人の気持ちに寄り添い、「皆さんに楽しんでもらえるように」と声のかけ方や接し方に配慮する。「社長と距離が近く、スタッフのアイデアも積極的に聞いてくれます。先輩方もみんなやさしくてアットホームな雰囲気の会社です」と話す。スタッフの自主性を大切にし、それぞれの特技を発揮して活躍する。絵を描くのが得意な杉谷さんは、店頭のポップや通販商品に添えるメッセージカードに、オリジナルのウサギのイラストを手描きして、もてなしの心と感謝の気持ちを届けている。「スタッフは、お客様と仲間への愛が強い人ばかり。どんなに忙しくても笑顔が絶えない楽しい職場です」と語る。
通勤時間は車で約15分。職場の駐車場は温泉街の一番奥まったところにあるため、そこから職場までは10分ほど歩く。朝の温泉街の風情を感じながら歩くこの10分間は、杉谷さんにとって大切な時間。「仕事の前に心を落ち着かせられるんです。こういう時間が持てるのって、幸せなことだなと思います」。帰り道には、よく湯薬師広場で温泉の源泉をボトルに入れて持ち帰る。「乾燥した時にシュッとひと吹きすると肌が潤うんです」と美肌効果を実感している。
地元に帰ってきて中学高校時代の友人と会う機会が増えたといい、「休みの日は一緒にご飯を食べに行きます。一人で食べるより、みんなでワイワイ食べる方がずっとおいしい」とうれしそうにほほ笑む。会社の同僚とも仲が良く、温泉街にある無農薬野菜の手料理がおいしい食堂でランチするのが、休憩時間の楽しみだ。「島根は人と人の距離が近く、つながりやすい土地だなと思います。私もたくさんの方とのご縁をいただいたし、お店に別々に来られたのに、共通の話題で盛り上がってすぐに仲良くなられるお客様の様子を見て、縁結びの不思議な力を感じています」。
杉谷さんの願いは「玉造温泉の魅力をもっと知ってもらいたい」ということ。「玉造アートボックスの前の橋は、まちデコのみんなで色を塗りました。夜にはライトアップされて『キラキラ橋』と呼ばれています。他にも写真映えして、ほっこりできるスポットがたくさん」と語る。SNSやYouTubeを活用して温泉街をアピールし、玉造温泉に直接足を運ばなくても、その魅力に触れられるような取り組みも進めている。「離れていても『美肌の湯』を楽しんでいただけたら」。しっとりした輝く肌でにっこり笑う杉谷さん。美肌の湯の効果を実感しながら、人とのご縁に感謝して笑顔で仕事を楽しんでいる。