ここで輝こう。
国境の離島、隠岐に
自分の“居場所”を見つけた
まるで“遠距離恋愛”を実らせるかの如く、
5年通ってついに移住。
海を眺め、山を歩き、
人情を味わう素朴な島暮らしの中で、
人生とは多くの人と出会い、
繋がり合って生きていくことだ ・・・
そう確信した。
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本土から3〜4時間フェリーに揺られると見えてくる隠岐諸島。ダイナミックな火山地形や謎多き生態系、長い歴史と独自の文化を有し、ユネスコ世界ジオパークに認定されている島々だ。180余りの無人島と4つの有人島からなり、そのうち最大の島が島後(どうご)。島全体が隠岐の島町という一島一町の自治体で、離島とはいえ人口約14,000人を擁する。
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その隠岐の島町に大阪からIターンして3年目を迎えている、舟木睦さん。町役場に勤め、最初の2年は商工観光課で観光振興、2021年度からは地域振興課で移住定住や関係人口にまつわる業務を担当している。
移住はご縁、ということでよく結婚にも例えられるが、舟木さんの場合はヒラメキ婚でもスピード婚でもなく、じっくり相手の魅力を確認し満を持して結ばれるパターン。「初めて島を訪れてから5年間、かなりの頻度でお付き合いしましたからね〜」と笑って振り返る。
大学2回生の頃、研究の一環で隠岐へ初上陸した。圧倒的スケールの自然景観に息を呑み、温かい人情に触れてすっかり隠岐を気に入った舟木さんは、以後、関西の物産イベントに隠岐の島町ブースが出店すると聞くや販売の手伝いに駆けつけることもしばしば。夏のフィールドワークに加えてプライベートでも遊びに行くようになり、多い時には月1回、遠路はるばる島通い。まさに「恋に落ちた」のである。
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「最初から移住を考えていたわけではなく、島と関わり続ける中でだんだんハマっていきました。温泉に浸かっていたら心地よすぎて出られなくなった…みたいな(笑)。海産物など食べ物は抜群に美味しいし、神秘的な壇鏡の滝や、眺望が素晴らしい那久岬も衝撃的でしたが、やっぱり一番惹かれたのは『人』。関わるほどに顔見知りが増え、島を訪れればおかえり〜と迎えてもらえる。そんな関係性の中に、自分の居場所を見出すようになりました」
お世話になった役場の人たちと一緒に働きたい。彼らの仲間になる!と腹を決め、町役場の採用試験を受けて合格。大学院を卒業した2019年の春に移住し、晴れて島民となった。
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都会に比べると島の娯楽は少ないが、舟木さんにとって大事な趣味の一つがトレッキング。高い山でひたすら頂上を目指す登山とは違い、リラックスして山の中を歩くことだ。四季折々の自然を肌で感じながら、道中の地形や地質、隠岐ならではの植物や生き物との出会いを楽しみ、マイペースで歩く。
「地元の方から誘われたので、島の良いところを知るチャンスだと思って始めました。結果、大正解でしたね。山に登って隠岐らしい眺めに出会えた時が一番興奮します!道中、うまく上り下りできるルートを工夫しながら進んでみたり、地形図を見て、いま自分が立っているのがどういう場所なのかを考えてみたり、小さな気付きも楽しいです。仲間と一緒なら面白さも倍増ですね」
お気に入りは、都万(つま)にある高田山。標高315mと、隠岐最高峰の大満寺山(隠岐の島町)の半分ほどの高さではあるが、なかなか歩き甲斐があるワイルドなコース。山頂付近からは眼下に都万湾と集落、遠くには島前(どうぜん)の島々が見える。
「本当に絶景。離島だから当たり前ですけど、周りのどこを見ても海って感動的です。良くも悪くも人が少ないので景色を独り占めできるのも嬉しい。あと、一対一で対峙することが増えたからか、隠岐へ来てから自然との関わり方が変わったように感じます。海にも藪にもひるまず入っていけるというか…自然との心の距離が密になりました」
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人どうしの距離も、隠岐では近い。移住者であっても自ら心を開きさえすれば友達をつくるのは難しいことではない。例えば、舟木さんが「まるで人間交差点!」と称して愛する「京見屋分店」という雑貨屋。ここへ行けば、オーナー夫妻の気さくな人柄もあり、店に通う誰かしらとアッサリ友達になって交流が始まったり、困ったときに助けてもらえたりする。“おたがいさま”の考え方がベースにある、小さなコミュニティならではの顔が見える関係。そんな島社会の中で自分らしい役割を持ち、いきいきと暮らすことが理想だと言う。
「心や身体の健康は勿論ですが、さらに“社会的な健康”を大事にしたい。誰かと繋がり、関わり、動き続けることで自分も他人も幸せを感じられる、そんな生き方を隠岐ならできるような気がしています。互いに力を出し合って、思いやりが循環するイメージですかね。私の場合は、仲間と楽しむトレッキングや合唱サークル、子どもたちの自習をサポートする隠岐塾(=人づくりを担う寺子屋)に関わる時間をまずは大切にしようと思っています」
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自分らしく輝けるであろう“居場所”を隠岐の島町と定め、腰を据えた舟木さん。
「とはいえ、何としてもこれをやりたい!と思えるテーマはまだありません。焦らず、これから見つけていきます」
あらゆる出会いを楽しみながらぼちぼちと、島の仲間と共に歩む。まるでトレッキングのように、島暮らしをじっくり味わう構えだ。
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- 舟木睦さん
- 大阪府出身。大阪大学在学中に訪れた隠岐の島町に魅了され、大学院卒業後に単身Iターン。新卒で隠岐の島町役場に入庁し職員として働く。実は父方の祖父母は共に島根県出身で「さすが島根!“ご縁”に引っ張られました」(本人談) ※掲載記事は取材時点の情報となります。