音楽の力は無限大!
子どもたちと地域の人と
音楽で繋がる喜び
江の川が優雅に流れる島根県江津市へ、
東京からIターンした山田祐佳さん。
一般社団法人石見音楽文化振興会の
「ハイブリッドウインドオーケストラ」に所属し、
音楽活動を行いながら、
子どもたちへも音楽の楽しさを伝えている。
江津に来て、より音楽の素晴らしさを
知ったという山田さんにお話を伺った。
「2つ年上の姉の影響で、小学2年生の時に学校の金管バンドに入りました」。そう話すのは、東京都で生まれ育った山田祐佳さん。「虚弱体質に見られたのか、当時の校長先生に『肺活量が少ないから打楽器をやってみない?』と言われたんです(笑)小太鼓やグロッケン、鉄琴、ドラムなどを担当することになり、それが打楽器をはじめたきっかけになりました」と話す。
中学校では吹奏楽部へ入部。初めて専門的な指導を受け、打楽器の楽しさや奥深さを知ったという。打楽器は種類が多く、1曲の中でも複数の楽器を演奏することがあるが、それが打楽器の楽しいところであり難しいところでもある。さまざまな打楽器にチャレンジし、苦手なものでも繰り返し練習してきた。中学を卒業すると吹奏楽の名門高校へ進学し、大学は音楽大学へと進んだ。
「中学や高校の時は太鼓が多かったのですが、音楽大学となると一通りの打楽器を演奏できるようにならないといけなくて。これまでの打楽器とは違う新しい打楽器にも挑戦して、中でも苦手だった鍵盤楽器の練習に力を入れました」と話す。
山田さんが就職活動をしていた大学4年生の時、大学に勤める島根県出身の職員から、島根でオーケストラ奏者を募集しているという話を聞いた。以前は島根県内の高校で吹奏楽部の顧問として活躍し、現在は石見音楽文化振興会の代表理事を務める田中健一先生が「音楽の力で地域の人に癒しを与えたい」という思いのもと、島根に楽器プレイヤーをつくる構想をしているという。後日、その説明会を開くために田中先生が来学。音楽団体結成の構想や音楽への熱い思いを聞き、山田さんは強い感銘を受けたという。
その思いを感想にして田中先生に送ったところ、「実際に島根で一度演奏会をしてみませんか?」という誘いを受け、その年の8月に江津市の蓮敬寺で行われる演奏会に出演することになった。「お寺で演奏させていただいた時、お客様の反応がとても良くて、音楽好きな方が多い町だと思いました。スタッフの方たちもとても温かくて、縁もゆかりもない土地でしたが、この町で暮らしていけるイメージが湧いたんです」と話す。
これをきっかけに、江津市への移住を前向きに考えるようになった山田さん。「卒業後も音楽を続けていくためには、多くの打楽器を個人で揃える必要がありますが、江津市に行けば吹奏楽団で活動できて、打楽器も揃っている。何よりあのパワフルな田中先生となら、何でもできそう!と思ったんです」。そして演奏会の翌年の3月末、山田さんは江津市にIターンした。
山田さんが所属する石見音楽文化振興会は、キッズ音楽教室のほか、音楽フェスやコンサートなどを開催し、地域に音楽文化を広める活動を行っている。山田さんは、その活動の一環である「ハイブリッドウインドオーケストラ」の立ち上げ準備をしていたが、オーケストラとして演奏会を行うには人数が足りず、団員を集める活動を行ったという。その甲斐あってオーケストラとして演奏ができるようになったが、新型コロナウイルス感染症の影響で演奏会が延期となり、奏者にとって厳しい時期を過ごしたという。そんな中でも、コンサート開催を信じて日々練習を重ね、ついに2021年に第一回目の定期演奏会は実現した。
「いろいろと苦労もありましたが、ようやくオーケストラとしてのはじめてのコンサートができました。この地域は合唱をされる方が多いからか、演奏中の手拍子はもちろん、歌詞のある曲ならお客さまが一緒に歌ってくれるんです。島根ならではなのか、演奏者とお客様との距離感がとても近いんです。東京では演奏に合わせて歌ってくれるということはなかったので、ビックリしました」と山田さんは嬉しそうに話す。
距離感が近いのは演奏会の時に限らない。道を歩いていると「演奏会に出ていた人だね!」「あなたの笑い方、特徴があるわね!」など、普通に声を掛けられる。「普段でも地域の人たちとの距離感が近いんです。都会では考えられないですね」と笑う。地元の人との何気ない会話も楽しんでいるようだ。
最近はオーケストラの他に、保育園や市民センター、コミュニティセンターなどで、ソロやデュオでの演奏を行っている。「お気に入りの打楽器はスチールドラムです。スチールドラムとはドラム缶からつくられた楽器で、叩くと南国や海を感じさせる音色が響きます。イベントなどでスチールドラムの演奏で始まるディズニー映画の曲を叩くと、子どもたちの反応が良く、楽器に興味をもってくれるんです」と話す。
山田さんには「子どもたちに音楽の楽しさを伝える仕事をしたい」という夢がある。以前、音楽大学を受験したい男の子がソロコンクールへ出場するために指導した経験があり、彼が金賞を受賞したという報告を聞いて、自分が成功した時以上に喜びを感じたという。「私が姉や小学校の校長先生から音楽のきっかけをもらったように、自分も次の世代の子どもたちへ、その恩を送っていきたい」と思いを語る。
山田さんは石見音楽文化振興会のほか児童クラブの仕事にも携わり、そこでも子どもたち向けの音楽イベントを開催している。児童クラブの夏祭りでは自分がつくったカスタネットやシェイカーを配り、演奏に合わせて鳴らしてもらうなど参加型の演奏会を行った。
「子どもたちの笑顔や、親子で楽しんでくれている様子を見ていると、演奏会をやって良かったと思います。『子どもたちに音楽の楽しさを伝える』という夢が少しずつ実現しています。音楽を好きになってくれる子ども達が増えて嬉しいです」と微笑む。
音楽文化振興会のスタジオの近くには地域の人たちが集まる複合施設『パレットごうつ』があり、山田さんはその中庭でライブをしたいという。「ほかにも小さな公園や路上ライブなどで演奏して町の人が集まって楽しんでもらえる空間をつくりたいです。それを応援してくれる人たちや環境が、この町にはたくさんあります」と話す。
今後は音楽と自然に触れ合える環境づくりを目指して、参加型イベントや楽器に触れられる体験会、家族で楽しむ音楽会などを積極的に行う予定だ。またコロナ禍において生演奏会がなかなかできないが、オーケストラの様子をYouTubeで発信し、多くの人に演奏を聞いてもらえるような仕掛けも考えている。ピンチはチャンス!「地域のための音楽」に向けた山田さんの挑戦はまだまだ続く。
- 山田祐佳さん
- 東京都出身。小学2年生の時に金管バンド部に入り打楽器を始める。中学、高校では吹奏楽部に所属。その後は音楽大学へ進学し打楽器を極めていく。大学卒業後は島根県江津市へIターン。一般社団法人石見音楽文化振興会に所属し「ハイブリッドウインドオーケストラ」で音楽活動をしながら、ソロやデュオでの活動も行っている。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。