しまね趣味時間歴史探訪

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歴史とともに人が生きる町で
愛おしい営みを見つけていく

歴史が息づく世界遺産の町、
石見銀山・大森地区。
愛知からやってきた富田真央さんは、
この町で往時の暮らしに
思いを馳せる時間を楽しんでいる。

 富田さんが故郷の愛知から島根にやってきたのは2015年、20歳の頃のこと。地域おこし協力隊に興味を持ち、任地に島根を選んだ。「どうせなら行ったことがない中国地方へ…と思い島根にしました。出雲大社は知っていましたが、他には具体的なイメージのない未知の土地へ。あえての選択です」。募集がかかっていた大田市の協力隊に応募。移住前、見学のために来県した際に石見銀山を訪れた。「本当にここに世界遺産があったんだ!と驚きましたね」と当時を振り返る。歴史の教科書で知り、知識としてインプットされていた石見銀山遺跡。文字情報だったものが、街並みや坑道遺跡など現実の景色となって目の前に現れたのだ。

 その石見銀山遺跡の世界遺産登録10周年を前に、地域を盛り上げることが協力隊としての課題となった。富田さんは銀山を中心とした観光PRや、ご当地キャラクター「らとちゃん」の活用を担当。課題に取り組みながら、石見銀山の歴史を学び始めた。
 「県外の友人が来た時にガイドさんと歩いたり、地元の歴史講座で石見銀山資料館の館長の話を聞いたりすることもあり、古刹や史跡の場所を歴史とともに知っていきました。ガイドさんのお話に出てきた場所が実際に存在するのを目にし、情報を資料館の絵巻と照合していくと、点と点が繋がるようで面白かったです」
 読書が好きで、特に時代小説を愛好している富田さん。石見銀山の歴史を知る中で、自身が江戸時代の町人文化に興味を持っていることに気づいたそうだ。銀山が一番栄えたのは江戸時代。大森地区の町並みには往時の面影が残り、かつての町人の生活・文化を紹介する施設もある。知識が実際の街並みや歴史とリンクし、自身を知ることにもなった。

 3年の任期終了後、大田市内で就職。大森地区には今でも興味が尽きず、友人や協力隊の仲間らと足繁く通う。顔見知りが増え、一緒にアウトドアやスポーツを楽しむ仲間もこの地区でできた。武家屋敷や町屋が立ち並ぶ町には今も人が住みそれぞれの営みを続けている。「景観を保存するためだけの町じゃなくて、銀山の歴史と一緒に今の生活がある。そこが面白い!赤瓦の屋根が続く眺めも好きです。都会では瓦屋根そのものが減っているので、貴重な風景なのかもしれません」。商家の邸宅をそのまま資料館にし、往時の生活を紹介している旧河島家、熊谷家住宅も心惹かれるスポット。「博物館で展示されるような貴重な品が、ガラスケースなどに入れられず展示され、間近に見ることができます。人がたくさんいて賑やかに暮らしていた頃を再現して並べられているのも良い!例えば女中部屋に小さな鏡台があって、その周りに俳優のブロマイドが貼ってあったりして、生活の中に小さな喜びを見出していたんだな…と想像すると愛おしくなります。銀を取引していた頃の帳面には、書き損じを直した跡があったり、竹を薄く削いで作ったふせんが貼られていたり…。当時の仕事の様子が生々しく見えてきます。時代に没入できる感覚がありますね」。好きな展示物の一つが、熊谷家住宅にある嫁入り道具。「この道具を持って嫁いで来られた女性の名前が書いてあるんですよ。実際にここで生きていた人の存在を感じます」。富田さんがここで触れているのは、知識としての歴史ではなく、今に続く愛おしい〝人の営み〟なのだ。古い街並みや住まいが残されている場所は島根の各地にある。暮らしの中のささやかな幸せや、確かにそこに生きていた誰かの人生を感じられ、歴史探訪にはうってつけの地域と言えるだろう。

 20代のほとんどの時間を島根で過ごしている富田さん。大田市は住み心地が良いと感じているそうだ。「引っ越してくる前はもっと田舎だと思ってました。隣の家が2キロ先とか、そういう僻地を想像していて。でも、スーパーもコンビニもあるし、車があれば買い物に困らない。〝来るもの拒まず去るもの追わず〟なムードも心地いいです。外から来た人に興味を持って観察するような視線はありますが、プライベートに干渉しない感じですね。しかも一旦仲良くなると裏表がない。私が住んでいるのは海沿いの地域で、漁師町だから特にあけっぴろげな人が多いかも。変に気を使って探りを入れることなく、言いたいことは言う。そこが私には合ってる!」

 富田さんは協力隊の同期に誘われ、コミュニティFMで大田市を紹介する番組の制作・パーソナリティを担当している「大田の楽しいことをざっくばらんに話す、堅苦しくない番組。収録はほとんど自宅で、仕事が終わってから私の家に仲間が集まって、今日は銀山について話そうとか、温泉津でイベントがあるから紹介しようとか、思いつくままに情報を発信している感じですね」。この土地で知った魅力を自身の中に留めたままにせず、発信する側として歩み始めているのだ。徐々に取材も増え、大森地区で働く人や魅力を知る人にインタビューすることもある。皆気軽に応じてくれるそうだ。
 取材時、富田さんと一緒に大森地区を歩いていると、商店や施設のスタッフなど町の人たちが富田さんに「元気にしてる?」「仕事はどう?」と声をかける場面がたびたびあった。中には「真央ちゃんをよろしくお願いしますね!」と親戚のように取材陣に話しかける人も。この地に愛着を持って関わろうとする富田さんの姿勢に、町の人たちも惹かれるものがあるのだろう。地域おこし協力隊をきっかけに県外からやってきた富田さんは、今や島根に溶け込み、自身が愛する〝人の営み〟の一部となっている。

富田 真央さん
富田真央さん
愛知県豊明市出身。地域おこし協力隊として大田市に移住。現在は大田市内で働きながらコミュニティFMのパーソナリティや、島根県立三瓶自然館サヒメルのインタープリターなど幅広く活動している。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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