島根にしかない
〝素敵〟と
私ができることを
探し続ける
ふるさとの日々

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東京で看護師として働き、
多忙な日々を過ごしていた本多瑠美子さん。
島根に戻り、自分のペースで暮らしながら、
経験とスキルを活かし、
地域を元気にする活動を始めている。

思い出のある祖母の家を
新しい生活拠点に

 日本海からの潮風が吹き、石見地方独特の赤瓦の家が立ち並ぶ小さな港町。本多さんが住むのはここにある小さな家だ。築50年の家をリフォームし、夫と二人で暮らしている。「LDKと水回りだけ業者さんに工事してもらって、他は全て私たち二人で改修しました。サッシを直したり、外壁を好きな色に塗ったり、表札を手作りしたり…。まだ2階は手付かずなので、これからゆっくり直していくつもりです」と話す本多さん。DIYに興味はなかったが、家の修繕をするうちに楽しくなってきたそうだ。外観は昔ながらの日本家屋だが、土間や玄関ホールはモノトーン調に統一され、リビングは元からあった梁と柱を活かしたモダンなデザイン。アイアンの表札は潮風に吹かれ少し錆び、それが味になっている。
 本多さんは東京都内の大学病院で看護師として12年間勤務していた。ふるさとの浜田市で縁があり、結婚を機に2019年にUターン。多忙を極めた東京での日々から、ゆったりとした暮らしにシフトチェンジした。今の住まいは亡くなったお祖母さんのもので、「空き家にしておくのはもったいないから」と勧められて住むことにしたのだ。本多さんの両親の家にも夫の実家にも近く、何かあれば駆けつけられる環境だ。住まいのそばには家庭菜園があり、本多さんの両親が季節の野菜を育てている。Uターンするまで農作業の経験がなかった本多さんだが、耕運機の使い方などを教わりながら懸命に手伝っている。「野菜を買わなくてもここで採れるので助かっています。父と母に『働かざるもの食うべからず』と言われるので、がんばらないと!」。お母さんは「娘夫婦が食べてくれるのでやりがいがありますよ」と幸せそうに話していた。

そこにしかない
〝素敵〟を見つける喜び

 「よく『東京から島根に戻るのは相当の覚悟が必要だったでしょう?』と言われるんですが、特に腹を括った感じはなかったですね。とにかく忙しかったので落ち着いて暮らしたくて、それが実現するなら東京でなくても良かった。パートナーが地元で見つかったし、Uターンすれば家族の近くに住めるし、良い機会だと思って」
 帰る前は島根の飲食店やレジャースポットの少なさが気にかかっていたが、探してみるとこだわりのカフェや雑貨店などが多く、ドライブがてら出掛けるのが楽しみになったという。「街の中を歩いていると古民家を改装した美味しいコーヒー屋さんがあったり、びっくりするような山奥に素敵なレストランがあったりするんです。帰ってからお気に入りのお店がたくさん見つかりました。東京は買い物をするところも遊ぶ場所もたくさんあるけど、選択肢って多ければ良いわけじゃないんだと感じます。〝探す楽しさ〟も良いものですね」。美しい山や川を眺めて心癒やされる日もあれば、近くの浜辺を歩きシーグラスや小石を集めて過ごす日も。街にも自然の中にも、自分の足で探し、素敵なものを見つける喜びが島根にはあるのだ。

看護の経験で
地元の町を元気にしたい

 看護師時代に地域ケアに興味を持っていた本多さん。現在は浜田市のまちづくりコーディネーターとして働いている。高齢者の買い物支援や過疎地域の集いの場づくりといった、住民による取り組みをサポートするのが本多さんの仕事だ。住民組織と行政の連携・調整を進めながら、健康増進や独居者の安否確認など看護の視点を取り入れた提案も行う。
 看護師の経験をもとに「コミュニティナーシング」にも取り組んでいる。「コミュニティナーシング」とは、その人ならではの専門性を活かし、病院ではなく地域の中で人と関わり、心と身体の健康を支えるために行う活動のこと。健康管理、居場所づくり、心身に悩みを抱える人の支援など、その内容は多様。取り組む人は、自分なりに地域を見つめそれぞれのやり方で課題に向き合う。本多さんはUターン後に雲南市のコミュニティナーシング団体「コミュニティナースカンパニー」で講習を受け、島根県西部の看護師経験者による合同会社「Community life-care」のメンバーとなった。地元での活動の第一歩として、三隅町の岡見地区で定期的に開催されるマーケットで「まちの保健室」を開設。買い物ついでに立ち寄ってもらい、血圧測定と健康相談を通じて病気の早期発見や健康寿命の延伸を目指すコーナーだ。本多さんを子どもの頃から知る人も多く訪れ、気軽になんでも話せる場所になっている。「みんなが住み慣れた場所で長く暮らしていけるように、私ができることを探していきたいです」
 長年学んできた手話のスキルを活かし、通訳にも挑戦している。看護師時代は多忙で、夜勤や土日・祝日の出勤も多く、派遣依頼が受けにくかった。Uターン後は仕事やコミュニティナーシングとバランスを取りながら派遣通訳の時間を確保している。「県内には通訳者のネットワークがあり、派遣依頼のシェアや技術交流ができます。仲間と一緒に通訳をする機会もあり、広い視野が持てるのが良いですね。島根はやりたいことがあれば活躍の場を得やすい地域だと思います」

人がつながる、
仲間と会える場所を創る

 2020年から、地元の食べ物や店舗を集めたイベント「つながるマルシェ」を開催。島根県が雑誌「ソトコト」とコラボレーションして開催する人材育成講座「しまコトアカデミー」を受講した際の仲間と一緒に、ふるさとの魅力発信のために始めたものだ。「島根はこだわりのあるお店、思いを込めて美味しいものを作っている人、奥深い伝統芸能など良いものがたくさんあります。みんな知らないだけで、きっかけさえあれば身近なところで素敵な出会いがあるはず」と本多さん。自身が見つけた飲食店に声をかけて交渉し、出店してもらうことも。出店者は徐々に増え、「次も必ず誘ってほしい」という声も上がっている。
 マルシェの中でコミュニティナーシングのブースも開設。共に地元の課題に取り組む仲間を増やすため、資料や書籍を置いて活動を紹介している。「看護の資格を持ちながら、現場を退いた人、新しい働き方を模索する人、能力を地域のために使いたい人…。きっと島根にたくさんいるはず。一緒に何かできれば良いですね」
 2021年は郊外の公園で開催したが、今後は市街地も視野に入れようと主催グループで話し合っている。来場した人が出店ブースだけでなく地元の商店も巡れる動線を設け、地域と人のつながりを深めることが目標だ。「ここに来れば仲間に会える、居場所がある、楽しい時間が過ごせる。みんながそう思って集まれるような場所を作っていきたいです」。ふるさとに根を下ろし、志を持って暮らし始めた本多さん。自分にできること、やりたいことを探し続ける中で、つながった人の輪が大きく広がり始めている。

本多 瑠美子さん
本多瑠美子さん
島根県浜田市出身。東京都内で看護師として勤務し2019年にUターン。浜田市まちづくりコーディネーター、合同会社「Community life-care」コミュニティナース。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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